趣味のひろば-32
『ツーリング』

佐野建築設計事務所  佐野 貴雄

 エンジン始動のための幾つかの儀式を終え、バイクにまたがり海岸やワインディングを駆け抜ける。二輪特有の鋭い加速と軽快感。ヘルメットだけの生身で走ることの緊張感と多少の不安… しかし生身だからこそ、季節とともに変わる自然を肌で感じることが出来るのも、またバイクの魅力でもあります。
15年程遠ざかっていたバイクを昨年秋に大型二輪免許取得を機に乗り始めることとなりました。 ほぼ忘れ掛けていた感覚、若いころは無茶な運転をしたものだなあと思いつつ、安全運転とマナーを心がけることは忘れない。中年リターンライダーのささやかな誇りでもあります。
 早春は刺すような寒風に手足の先の感覚がなくなってしまい、遠くまで出掛け過ぎてしまったことを後悔するも、ちょっと辛い思いをするくらいがツーリングの醍醐味、と強がってみたい。
春にはシーズン到来の喜びを、まばゆいばかりの新緑が共に祝ってくれているかのような錯覚に駆られ、浮かれ気味。混雑を避けて抜け道をするつもりで偶然通りかかった桜並木に、ついうっとり見入ってしまいタイムロスするも、得した気分に。
夏はエンジンの熱で股間が焦げる恐怖と闘いながら、なにもそこまで辛い思いをして乗らなくとも、と魔の渋滞にアスファルトの灼熱地獄。
 ツーリングの楽しみは、目的地までの道程と、そこで出会う人々や風景、当地で見る綺麗な建物、旨いものを食すことなどが挙げられます。
住民らの強い意志に支えられているのだろう、見事に整えられた厳かな町並みを散策する。農村にひっそりと佇む古民家の手作り石釜で丁寧に焼き上げられたピザと、有機野菜に珈琲で旅の疲れを癒す。
200キロ余の道のりを経てようやく辿り着く、趣のある綺麗で美味しい蕎麦屋を発見した時の安堵と喜び。
道の駅を一服がてらに立ち寄り、各地の特色に触れ名産を物色するのもわるくない。
 そして何より皆が無事にツーリングを終えた充実感を、反省会と称して打ち上げるのも楽しみのひとつです。
 秋の紅葉シーズンを控え、地図をひろげてツーリングルートに想いを巡らす。仕事の合間のひと時です。